歴史に視る美術の凄さ

遥かに半世紀を超えておりますが、若き時代の体験の一つにロンドンの英国博物館での遭遇があります。

ロンドンはまだ肌寒い季節でした。訪れた博物館の中に入り、真っ直ぐ古代ギリシャ彫刻のフロアへ進みました。一面を眺めていますと、一つの列に目がとまり、波を打つ優美な裸体像の男性がすくっと立ち、遠くを望んでいる姿が観えました。近づいて観ると、黄白色の大理石は長い時間を経てもなお優雅で、つい足が止まったのです。

ラベルを読むと、紀元前500年頃の古代ギリシャ“クラシック”時代とあり、「これだ!」と一人頷き、その裸体像に釘付けになりました。それはそれは、この時代の崇高な様式に感嘆するばかりでした。

ふと、横に並ぶ哲学者プラトンの胸像に目がいき、そのことにいまだ深い印象が残っております。

 “クラシック”時代が後の西洋美の古典になるゆえ、深く頷けるものでした。

列の並びに、紀元前600年頃の「アルカイック」時代の彫刻があり、その先に紀元前300年頃の「ヘレニズム」時代へ続き、この二つの時代を比べてみると、私が最もギリシャ精神を感じるのは、“クラシック”時代の彫刻でした。

ただ、残念なことに多くの戦争で、この時代の一点だけの青銅製彫刻のほとんどは失われておりました。

古代ローマは、紀元前2世紀にギリシャを支配したとき、ギリシャの芸術家たちの多くをローマに移らせ、大理石のオリジナル彫刻が生まれております。

ローマはギリシャを支配しましたが、かくして、ギリシャ精神はみごとに受け継がれ、今日に至ります。

あの英国博物館での閃きが、私の美意識となりました。爾来、美術に関心を深める日々となり、今日「一般財団法人 榛名美術」の創設に至りましたことを、ここにご報告申し上げる次第です。

館長 青木清志